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世界が注目する認知症フレンドリーコミュニティーとは [スマートエイジング]

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1月末、認知症フレンドリーコミュニティーとして有名な英国・プリマス市を訪れました。「認知症フレンドリーコミュニティー」という言葉は、まだ日本では一般的な言葉ではないですが、昨年12月にロンドンで開催されたG8認知症サミットでも取り上げられました。認知症の課題を解決するには、薬の開発や医療介護施設の充実だけでなく、認知症になった人が地域で暮らす際に、市民や様々な組織や立場の人々が認知症の課題を理解し、アクションを起こし、認知症の人や家族が暮らしやすい地域を作る必要があるというのが、認知症フレンドリーコミュニティーの取り組みの趣旨です。

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1月31日プリマスで行われた会議 認知症当事者3人のトークに会場300人が聞き入りました

英国では、認知症フレンドリーコミュニティーを作っていくために、それぞれの町でDAA(認知症アクションアライアンス)というネットワークが結成されています。プリマスは、そのDAAの取り組みが最も盛んな地域のひとつで、英国全土のモデルのひとつにもなっています。プリマスで、DAA(PDAA)が組織されたのは、2011年、30の組織が名前を連ねています。加盟している団体は、バス会社、図書館、大学、海軍基地、クリニック、介護施設、学校、非営利団体、弁護士など、市民に認知症のことを知ってもらい、認知症の課題に対して、それぞれユニークな取り組みをしています。
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http://www.dementiaaction.org.uk/local_alliances/1961_plymouth_dementia_action_alliance

認知症フレンドリーな学校
地域の学校(11歳から18歳までの生徒が通う)では、全ての教科に認知症をテーマとして盛り込む取り組みをしています。特定の授業の中で認知症の話を聞くのではなく、例えば、映像制作の授業では、認知症の人をテーマに映像を制作したり、社会科の授業では、地域の介護施設を訪問して、入居者の人とコミュニケーションをとるなど、様々な形で認知症のテーマを知ることができます。
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認知症フレンドリーな図書館
また図書館では、健康をテーマにした図書コーナーを設け、認知症に関する本を積極的に設置したり、認知症を含む様々な病気の当事者や家族が集まる場を提供し、読書会を継続的に開催しています。
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認知症フレンドリーな交通機関
バス会社では、認知症の関する講習を、選ばれた社員が受講し、その社員が会社へ戻り、他の社員に対し、認知症に関する情報提供を行い、認知症の人がバスを利用する際に起こりうる課題について学んでいます。利用者が、降りる停留所が分からないなど、バスの利用に不安がある場合には、事前に運転手に、理解と協力を求める折りたたみ式のカードがあり、「どこの停留所に着いたら、教えて欲しい」など個別のサポートを受けることができるようになっています。
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日本を参考にした取り組みも
認知症に関する講習は、日本の認知症サポーターの制度を参考にしたと言われ、認知症について学んだ認知症チャンピョン(日本の認知症キャラバンメイト)と呼ばれる人が、自分の会社や組織に戻り、他のメンバーに情報を伝え、認知症フレンズ(日本の認知症サポーター)となるという仕組みをとっています。
大学では、大学の教員・職員向けに、認知症の講習を実施する他、認知症をはじめとした介護をする職員向けの、業務時間の調整(フレックス)などを実施しています。

認知症サポーターをはじめ、日本でも、同様の取り組みがあります。日本の多くの地域が、知識の伝達まではできているものの、アクションに結びついていないのに対し、プリマスでは、DAAというアクションを起こすためのプラットフォームを準備し、各組織が主体的な動機を持って、行動を起こしている点に違いがあります。

例えば、図書館で行っている読書会は、地域の図書館がより多くの人に利用してもらうことを目的にした活動の一貫で、認知症の文脈だけでなく、図書館の活用促進という意味を持っています。実際に、読書会を行うようになってから、図書館の会議室の利用者は2年で2倍になりました。

また、歯科衛生士の女性が創設した非営利組織(CIC)は、認知症の人の多くが口腔ケアがされていないという問題意識から作られました。認知症の人の場合、自身で口の中のケアをすることが難しく、家族や介護者が歯を磨かなくてはならないのですが、歯磨きをしている間に指を噛まれてしまったり、歯を磨くことを拒否されてしまうことがあります。この組織では、認知症の人の歯磨きの方法を、家族や介護者向けに教えていますが、口腔ケアの重要性をより広く一般に知ってもらうため、DAAに加盟している他の組織に協力を求め、講座を実施しています。認知症の課題に取り組む上で、地域の他の組織と協力しあいながら、取り組みを広げて行く場にもなっています。
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初めは数人の想いから
PDAAを組織するきっかけを作った人物が、イアンさん。
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航空関係の会社で技術者をした後、プリマス市役所でソーシャルケアの担当として20年働いていました。2009年、首相の主導で始まった英国の認知症国家戦略の策定にも関わっていたイアンさんは、地元プリマスで、認知症フレンドリーコミュニティーを作るための市長を始め、関係機関を奔走し、DAAを結成することになりました。初めは、熱意を持っていたのは、イアンさんを含む4、5人だったそうですが、周囲も、認知症をとりまく課題を理解するうちに、自分の問題としてとらえ、行動をする人が増えて行ったと言います。

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DAAを構成する団体の人にお話を伺った印象としては、「認知症フレンドリーな○○」についてそれぞれが考えて、行動しているということが際立った特徴ではないかと感じました。例えば、認知症フレンドリーな学校、認知症フレンドリーな図書館、認知症フレンドリーな海軍基地・・・DAAを構成する団体の人々は、認知症の課題をそれぞれの組織や職場の文脈に落とし込み、ジブンゴトとしてアクションを起こしています。ひとつ、ひとつの取り組み自体は、日本でも実践されているものもありますが、DAAというプラットフォームを作り、継続的に取り組みが発展していく仕組みが生まれている点が素晴らしいと思いました。

課題と日英での協力の可能性
一方で、課題をあげるとすれば、何を持って「認知症フレンドリー」とするか、定義については、先進地プリマスでも、共通する定義はありませんでした。これは、それぞれの判断に委ねているという理解もできる一方で、地域同士で取り組みを比較した場合に、評価が難しく、わが町は認知症フレンドリーコミュニティーだと標榜すればよいということにもつながる懸念があります。

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今回、訪問したグループには、日本の先進地・富士宮市から市役所の稲垣康次さんも同行されましたが、国内外を問わず、各町の取り組みをお互いに知る中で、「認知症フレンドリー」の共通理解が進むような定義や指標づくりが求められていると思います。
ひとつの試みとして、アルツハイマー病協会では、認知症フレンドリーコミュニティーに関する報告書を出しており、この中で認知症フレンドリーの定義やアウトカムなどについてまとめています。(これについては、また別エントリーで、報告したいと思います。)

来週、東京で報告会もありますので、関心のある方はぜひ!
https://www.facebook.com/events/452410694886439/

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英国 認知症の人の暮らしをよくするデザインコンペ [スマートエイジング]

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先週、参加させていただいてブリティッシュカウンシル主催のイベント「デザインで創る ~安心して認知症と暮らせる社会~」は非常に刺激的な内容でした。

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スピーカーは、デザインカウンシルという団体のカミラ・ブキャナンさん。
デザインカウンシルは、デザインを通じて、社会をよくしていこうというミッションを持った歴史ある団体だそうなのですが・・・・今取り組んでいるプロジェクトが認知症。
http://www.designcouncil.org.uk/dementia

英国の保健省とパートナーシップを組み、認知症の人の暮らしを向上させるアイデアを公募。その中から5つのアイデアに予算をつけ、商品やサービスとして形にしました。

例えば・・・

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認知症の人が食事をとらなくなってしまい栄養不足になる問題を解決するために、食欲を刺激するためのアロマ。食事の前に、食べ物のにおいを流すことで、これから食事の時間であることを認識することにも役立ちます。

それから、

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認知症の人のための盲導犬ならぬ認知症犬。認知症の人の自由と意思を尊重しながら、必要なサポートやガイドをする役割を持った犬だそうです。従来の介護現場で登場するアニマルセラピーとは違い、自立をサポートするための犬というコンセプト自体が非常に面白いですね。

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カミラさんは、デザインという概念は、製品をイメージしがちですが、モノに留まらず、サービスや仕組みも含めた概念だと話していました。そう考えると、認知症をとりまく課題は、デザインの時代に入りつつあるのではないかと感じました。

私も少し話題提供をさせていただいたのですが、その中のスライドがこちら。

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歴史的には、認知症の人が、専門家の管理する空間に隔離される時代から、より開かれた空間(地域)で、認知症の人専用ではなく、より一般的な商品やサービス・仕組みの中で生きていく時代へとシフトしていると思います。

国を巻き込み、こうしたアイデアコンペが行われている英国は、日本の一歩先を行っているという印象でした。日本でも、こうした動きを作っていかねばと思う時間でした・・・

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認知症フレンドリーな日本をつくろう [スマートエイジング]

先週の金曜日に認知症フレンドリーな社会について考えるセッションを開催しました。

IT・自動車・生活用品・飲料食品・文具オフィス家具・介護関連など多様な企業と自治体関係者30名ほどが集まりました。

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認知症フレンドリーとは

「認知症フレンドリー(dementia-friendly)」という言葉は、聞き慣れない言葉かもしれませんが、世界で認知症の問題が大きくフォーカスされる中、英語圏で注目されているキーワードです。

認知症フレンドリーなコミュニティ
認知症フレンドリーなデザイン
認知症フレンドリーなビジネス

というような使われ方をしていて、単に「認知症の人にやさしくしましょう」という精神論ではなく、コミュニティや製品・サービスのデザインにおいて、認知症の人が暮らしやすい・使いやすい機能が内包されているかどうかという視点から使われる言葉です。
1990年代に、環境にやさしい(エコフレンドリー)という言葉が一般的に使われるようになり、製品・サービスにおける環境配慮が進んだように、超高齢社会を迎えつつある日本や他の国々で、大きなトレンドを生み出す可能性があるキーワードです。

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現在の日本の文脈では、認知症というテーマは、まだ医療や介護の枠組みで話され、薬がいつできるのか、介護サービスはどんなものがいいのか、福祉予算は足りるのかなどの話が中心です。

しかし、厚労省の研究班の最新の報告では、認知症の人は462万人(2012)、予備軍も含める900万人以上と言われており、特別な空間で、特別なケアをするというアプローチではなく、認知機能に障害がある人々が地域で暮らしていける社会の設計が求められています。

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この日のセッションは、ゲストの3人からお話を伺い、未来のキザシを感じることから始まりました。
■佐藤雅彦さん(認知症当事者として全国を講演)
■稲垣康次さん(認知症の人が安心して暮らせる地域づくりの施策を進める富士宮市役所)
■松浦貴昌さん(ブラストビート代表理事・ギフト経済ラボ)

認知症の人から地域や社会を見た時、そこにはどのようなジブンゴトがあるのか?
今、自分が取り組む仕事や活動にはどのような意味を持つのか?
認知症フレンドリーな社会を考えるのに、どのような問いは何か?

参加された皆さんそれぞれの体験や価値観を共有する中で、
異なる立場や専門の人たちが、一緒になって何ができるのかをプロトタイピングしました。
来年の6月に、認知症フレンドリージャパン・サミットが開催されるという想定で、
皆さんには問題意識を共有するグループをつくっていただき、未来の記者会見をしていただきました。

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認知症フレンドリージャパンへ

2年前から開催してきたフューチャーセッションは、今回で4回目を迎え、企業や自治体・NPOが認知症の課題に取り組むとどのようなチャンスがあり、どのような協力が可能なのかを探ってきました。対話を通じて、様々な企業のみなさんとの本気の問題意識をぶつけ合うこともできました。
いよいよ、今年からは、アクションを形にしていくフェーズへと移行していきます。

これまでの流れをさらに発展させる形で、
今秋に、認知症フレンドリージャパン・イニシアチブを立ち上げ、
来年6月には第1回認知症フレンドリージャパンサミットを開催します。
(今回のセッションの記者会見の想定は、仮想ではなく、実際に開催する予定なのです。)
イニシアチブでは、自治体・企業・NPOなどが参加し、その傘の下、様々なプロジェクトを立ち上げていく予定です。

認知症フレンドリージャパン・イニシアチブの公式ページ
http://www.dementia-friendly-japan.jp/
認知症フレンドリージャパン・イニシアチブのFBページ
https://www.facebook.com/dementia.friendly.japan
(2つとも、内容はこれから、みなさんとつくっていきます!)

詳しい内容は、これから、みなさんと一緒につくっていく予定です。
まずは、その第一弾として、
6月28日(金)・7月16日(火)には、誰と、何を、どんな風にやっていくのか、
アイデアを出すための会を開催予定です。(詳細はまた、ご案内します。)

認知症大国とも言える日本が、問題の多い国ということではなく、新しい地域や未来・社会のシステムを生み出し、世界の国や地域のあり方をリードできるような日がやってくると信じています。
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オランダ訪問(2)日本への示唆 [スマートエイジング]

オランダのホーフヴェイグから学ぶことは3つあります。

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    ホーフヴェイグ内のスーパーマーケット

まず、シンプルにこのような場所を日本にも作ってみてはどうかなと思います。
私の個人的な印象ですが、認知症グループホームなどの中には、ここよりもより地域で「普通に暮らす」ことが実現できているところがあります。そこをこのような施設に戻す必要は全くないと思いますが、デザインや職業意識が固定化されてしまっているタイプの老人ホームなどは、根底にある思想を理解した上でこうしたデザインを取り入れリノベーションするというのは意義のあることではないかと思います。スイスやドイツなどでは実際に類似した場所を作る予定になっているそうですが、イボンヌさんが懸念していたのは、建築だけ真似て、人の教育や働き方が従来のままになってしまわないかということでした。普通の暮らしを実現するというコンセプトが重要になります。
以前取材したことがありますが、日本でも介護施設に、居酒屋コーナーを作ったり、部屋が家だということで廊下に番地表示をつけたりという取り組みがありました。残念ながら、これは非常に表層的な取り組みだと感じています。あくまで大事なのは、全体を貫く思想にあると思います。

次に、ライフスタイルという方法論です。日本では多くの場合、「普通の暮らし」は、その場所を経営する現場責任者や法人の経営者のもつ観念によって規定されています。もちろん、非常に主体性と多様性を重んじる人もいますから、自然と多様なケアの空間を作っている人もいますが、日本人の「普通の暮らし」が1つしかないということはないと思います。もちろん、一人一人に固有の暮らしがあり、固有にプランがあることは言うまでもありませんが、その上で仕組みとしてこうしたライフスタイルの考え方を取り入れていくのは意義のあることではないかと思います。(ホーフヴェイグでも、個別に生活の目標や計画はもちろんあると言っていました。)もし、日本で、地域ごとに様々な介護施設やサービスが様々なスタイルによって提供されていて、自由に選べる状況であれば、必ずしも一つの法人内でこうした多様なライススタイルに対応する必要はないかもしれません。

3つ目は、地域づくりへの示唆です。

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ディズニーランドが夢の国で、キャストの働きやモチーベーションも素晴らしいからと言って、それを浦安市全域に広げたり、日本全体へ広げたりすることは原理的に不可能です。あくまで、1つの会社がマネジメントする空間だから、ディズニーランドがディズニーランドになっているのです。それと同じように、ホーフヴェイグがよいところだからと言って、それを拡張して、認知症の人が(も)安心して暮らせる地域を作ることは無理ではないかと思います。
一方で、私が認知症フレンドシップクラブでは、地域を構成する市民やお店に対し、認知症の人への接し方などの講座を通じて、安心して暮らせる地域を作ろうとしてきました。少しずつ、地域は変わり始めているものの、人やお店を啓発するアプローチだけで、近い将来、認知症の人がどこでも安心して出歩ける地域を作ることも難しいのではないかと思います。町を構成する人々は入れ替わるし、全ての人の意識や行動を変えるのはかなりのチャレンジです。
例えば5年後と考えてみた場合、2つのアプローチの中間、あるいはこれらを組み合わせたような地域づくりができるのではないかと思います。例えば、介護施設と学校とショッピングモールを、それぞれホーフヴェイグのような場所にして、それをつなぐ交通システムを認知症の人も安心して利用できるものにする。あるいはこれらをICTでつなぎ、認知症の人が安全圏から出たらアラートが出る、そういったことが考えられるのではないかと思います。まち全体は、かならずしも認知症の人が安心できない砂漠のような場所であったとしても、安心できるオアシスのような場所とそれをつなぐ道さえあれば、最低限、「普通に暮らす」を体現できるのではないでしょうか。

昨年から国際大学と富士通研究所と進めてきた認知症のプロジェクトも、まもなく領域の探索のフェーズを終え、実際の実証実験のフェーズに入っていける手応えが出てきました。来年から、これまで深めてきた概念をより具体的な仕組みに落としこんでいく作業を始めていきたいと思います。


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オランダ訪問(1) [スマートエイジング]

オランダ・アムステルダムの郊外・Weesp市にある介護施設ホーフヴェイグHogeweyを訪問してきました。
ここは、認知症の人の住む老人ホームですが、居住スペースの他、スーパーやレストラン、美容室、コンサートホールなどがあり、言わば、全体が1つの町のように設計されているユニークな場所です。

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国際大学や富士通研究所と進めてきた認知症のプロジェクトでは、認知症の人も安心して暮らせる社会について構想を深めてきましたが、その一環で今回の訪問が実現しました。場所自体の見学だけでなく、この場所が生まれた背景とプロセス、この地域で関係する他の取り組みなどもお聞きし、また、現地のマネジメント層や長年取り組んできたスタッフへ日本での認知症についての取り組みやまちづくりについてもお話しし、意見交換をすることができました。今後、日本での取り組むにあたっての重要な示唆を得ることができました。

まずは、どんなところだったのかからご紹介します。

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Weesp市は、アムステルダムの中心から電車で15分ほどの地方都市です。
介護施設ホーフヴェイグは、静かな住宅街の中にあります。
玄関を入ると、中庭のようなところに出ます。周りを見回すと、綺麗なレストランやスーパーなどがあり、空間を様々な人が行き交っていて、ショッピングモールの一角にいるような感覚になります。
認知症の人たちが住むは、この中には囲むようにいつか配置されている2階建ての建物です。その建物は、さらに小さな居住スペースに分かれており、全部で23の居住スペース(ここでは家と呼ばれています。)があります。介護スタッフやボランティアなどが付き添っている高齢者もいましたが、高齢者がひとりで散歩したり、買い物をしたりしているのが非常に印象的でした。

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レストランで、長年このプロジェクトに関わってきたイボンヌさんが、この場所が生まれた背景について話してくれました。この介護施設も、かつては他の介護施設と同じく、病院のような構造の建物で、看護師やヘルパーと一目で分かる格好をしたスタッフが働く場所だったそうです。転機となったのは、1992年。イボンヌさんたちスタッフが中心となって、脱病院化を進め、認知症の人がこれまでと同じように普通の暮らしができる場所にしようと話し合いを重ね、スタッフの教育、働き方、施設のデザインなどを段階的に改善してきました。ちょうど、転機となった頃に、イボンヌさんの父親が突然亡くなったそうで、老人ホームで働いているのに、「父親が老人ホームに入らなくてよかった」と思ってしまったことに大きな矛盾を感じてしまったことが大きな原動力となったようです。

「普通に暮らす」というコンセプト自体は、日本でもよく言われることで、とりたてて珍しいことではありません。しかし、「普通に暮らす」を体現する方法が非常にユニークでした。まずは、このコンセプトについて、改革の中心となったイボンヌさんたち、働くスタッフ、この場所で働くボランティア、居住者たちの家族と、徹底的に対話をしたということです。何が普通かというのは、その人の家庭環境や文化、経済的な環境によっても大きく異なります。対話を通じて、普通の暮らし、普通の家、普通の一日の過ごし方は1つではないということを導き出します。
次に、93年からは、心理学者とともに、ライフスタイルについて調査を始めます。入居している人の家族に聞き取り調査を行い、それらがいくつかのライフスタイルに分類できることが分かりました。世界的にライフスタイルを研究するリサーチ会社の研究成果も取り入れ、最終的に7つのライフスタイルを設定。それに基づき、23の居住エリアをデザインし、2002年に現在のホーフヴェイグが完成しました。

7つのライフスタイル

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居住者は、入居する前に、本人か家族によるアンケートを行い、7つのライフスタイルの中でどれに該当するものが多いかを判断し、希望も聞いた上で入居する場所が決定されます。
注意したいのは、これらは、人間を7つに分類すると何もかも上手くいくということではなく、普通の家に住むことに近づけるための手段としてライフスタイルを位置づけているということです。普通の家に住むということは、家庭的な環境のユニットを作る必要があり、そこには、比較的近い価値観の人と過ごすことが大事であるという考えに基づいています。

いくつかの居住エリア(家)を見学させていただきましたが、1つ1つの居住エリアは、日本でいうところの認知症グループホームのユニットに近い感じです。各ユニットには、7〜8人が住んでおり、一人一人の部屋があり(必ずしも一人部屋ではないようですが。)、共有スペースにリビングとキッチンがついています。スタッフは、ユニットにつき1.5人、それに加えて、地域のボランティアの人たちがいます。面白いのは、ライフスタイルに応じて、スタッフの仕事も少しずつ違うという点です。例えば、家庭中心型の家では、食事を作ったり、選択をするのは居住者が中心で、スタッフやボランティアはそのサポートをする役割を担います。一方で、アッパーミドルクラスや都市型の家では、食事の内容を決めたりするのは、居住者ですが、実際の作業をするのは、スタッフやボランティアが中心です。家事1つをとっても、これまでの暮らし方が異なるのです。

こうしたライススタイル別に暮らしていると、他の人と交流する機会がないのではないかと思う方もいるかもしれませんが、そこで出てくるのが町です。家を出ると、他の家が並び、スーパーやレストラン、コンサートホールがあります。ベンチに座って、他の家に住む人と会話することもできるし、その他町には、様々なクラブ活動が用意されていて、音楽を楽しんだり、絵を描いたりすることもできます。移動には、地域のボランティアが付き添う場合もあれば、居住者だけで移動している場合もあります。
認知症ではない私たちの暮らしも、実はこうした構造をもっているのではないかと思います。家や会社という比較的近い価値観を持った集まりにベースを置きながら、趣味や旅行、地域の活動を通じて別のグループとも交流を持つ。こうした「普通の暮らし」の構造が再現されていると言えます。

この町の特徴は、認知症の人でも人で出歩いて大丈夫というところです。スーパーで買い物をして、もしお金を払わないで出てしまったとしても、あとで店員さんがその人の住む家にいるスタッフに連絡をとって、お金をもらうか商品を返すかなどの対応をとってくれます。レストランに、認知症の人が、レストランだとは気づかずに迷い込んできてしまったとしても、レストランの人が気づき、座ってもらい、飲み物を出してくれます。この町は、認知症の人が安心して出歩ける町なのです。

なぜ、自由に歩いても大丈夫なのでしょうか。日本の介護施設で、比較的重度の認知症の人が一人で自由に出てもよいというところはないと思います。
実は、この町は出入口がひとつしかない管理されたエリアだからです。出入り口には、24時間スタッフが常駐しているのです。町ではあるけれど、囲まれた町、あるいは町のように構造をもった1つの施設だからなのです。ですから、認知症の人が、いつでもこのエリアの外に出られる訳ではないので、本当の意味で自由ではない訳ですが、その一方でこのエリアの中では“自由”に移動できるのです。スーパーの店員も、レストランの店員も、介護スタッフではありませんが、ここを運営する財団のスタッフで、認知症に関する専門の研修を受けています。

昔、トゥルーマンショーという映画がありました。主人公の男性が、ある時、突然自分の人生自体がショーであり、家族や友人も役者、町もセットであること知るというものですが、この場所を認知症の人をだまして、普通に暮らせるように見える大きな施設を作っている、という批判もあるようです。確かに、普通に暮らすためには、スーパーやレストランが1つずつあるだけでなく、いつでも遠くへ旅に行くことができたり、いくつかの居酒屋をはしごしたりということも含まれるかもしれません。時には、道に迷ったり、お金を落としたりするのも普通に暮らすということに含まれるかもしれません。囲まれたエリアで町を作っても、それは擬似的なものでしかない、というのはもっともなことです。イボンヌさんも、認知症の人がどこでも出歩ける地域というのが、実際にあるのであれば、そちらの方がよいし、私たちのところは必要ないと言っていました。しかし、まだ世界のどこにもそんな町はありません。ひとつの具体的な町のひな形を作り出しているという意味で非常に意義のある取り組みだと思いました。

日本への示唆については、次のエントリーで書きたいと思います。
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人生はどんなゲームなのか? [スマートエイジング]

突然ですが、みなさんにとって、
人生は、どのようなゲームですか?

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誰もが一度はやったことのある「人生ゲーム」は、
ルーレットを回しながら、職業についたり、不動産を買ったりしながら、
お金を集めていき、最後に一番多かった人が勝ちというゲームです。

ゲームとしては、みんなでやると面白いのですが、
こうしたルールで人生を生きている人はあまり多くないと思います。

この人生ゲームにしごと(やりがい)、子育てや介護という要素を入れると、
ゲームはどのようなルールになり、何をすると勝ちになるでしょうか?
そもそも、人と勝ち負けを競うゲームなのでしょうか?

スマートエイジング社会における新しい人生ゲームを考えてみようと思い、
来月フューチャーセンターウィークにイベントを開催することにしました。
その名も、「リアル人生ゲームを作ろう」

介護や子育て、キャリアパスについて独自の体験を持つトップランナーと、
ゲーミフィケーションの第一人者・国際大学の井上明人先生も参加していただき、
ゲームのプロトタイピングをします。

出てきたアイデア次第ではありますが、あわよくば、
人生を考えるためのゲームとして商品化も視野に入れております。

自分の生きている世界がどんなゲームなのか考えてみたい・・・
様々なライフステージにおいて、豊かに生きることとは・・・
ゲームづくりを通じて、そんなことを考えてみたい方はぜひご参加ください。
お申し込みは、こちらから。
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介護における「知識」と「知恵」の違い [スマートエイジング]

知識と知恵の違い
様々な定義があるようですが、
多くに共通するのは、以下のようなことだと思います。

「知識」 ある事柄について知っていること
「知恵」 ある問題があった時に、方針を立て、手持ちの情報を活用できる能力


「専門家」=知識の専門家
この違いについて、これまで強く印象に残っているのは、
NHK時代に取材させていただいた借金問題の領域で活躍する吉田猫次郎さん(ペンネーム)です。
http://www.nekojiro.net/

借金に悩む人の相談先としては、法的整理ならば弁護士、経営に関係していることならば、経営コンサルタントや中小企業診断士、税理士といったところですが、その人の抱えている借金の問題は複合的でひとつの専門性では不十分なことが多く、専門家と呼ばれる人は得意としている解決方法によせて問題を解いてしまう傾向があります。

それに対して、猫次郎さんは、自身親の経営する会社の連帯保証人になったことから、多額の借金を抱えた体験者で、銀行とのハードな交渉やヤミ金での監禁などを体験しました。現在はその経験をもとに、本を書いたり、借金に悩む経営者の相談にのる活動をしています。全国を飛び回って「専門家」と言われる人たちへの講演もこなされています。

「専門家」と言われる人は、知識があるかどうかを判断するテストに受かっている訳ですが、それを運用したり、総合したりする能力、つまり知恵を持っているとは限りません。もちろん、最低限、知識を持っていることを担保するために、こうした資格は必要ですし、意味のあるものだと思います。

しかし、人生に起こりうる問題の多くは、1つの専門性で解けることは稀で、複合的なもので、知識と知恵の違いが非常に重要になってくるのです。

介護における「知識」と「知恵」
さて、介護の世界に目を向けるとどうでしょうか?

私には、上述の「借金」の問題と全く同じ風景が見えます。

一般には、介護に関係する相談事は、「専門家」に相談すれば解決すると思われています。
それは、例えば、ケアマネジャー(介護支援専門員)であったり、地域包括支援センターと呼ばれるところだったりします。

もちろん、そうした「専門家」の中に、知識だけでなく、知恵を持った方も少なからず存在します。
しかし、残念ながら資格を持っているというのは、知識を持っているかどうかを担保するものであり、知恵の有無を担保するものではありません。借金の問題において、あまり最適な解決策と言えないけれど、弁護士さんに相談したばっかりに、法的整理をすることになってしまうというようなことがあるそうですが、介護についても同じようなことが起きています。問題の解決にはならないけど、上限まで介護サービスを入れるプランを勧められたたり、あまりよく知らない領域のことにまで首を突っ込み、問題を悪い方向へ誘導するということもしばしば起こります。

介護に関する悩みを、総合的に受け止めることができるのは、時に、介護を体験した人であることがあります。行政窓口へどのように言うとスムーズに事が運ぶのか、医療と介護がうまく連携してもらうにはどのように働きかけたらいいのか、支援の制度を利用するにはどこへ行けばいいのか、介護で心理的に追いつめられたら、どうすればいいのか・・・介護家族の人たちは、こうした知恵の宝庫です。しかし、一方でそうした知恵は、あまり広く活用されずに埋もれてしまっているという現実もあります。

スマートエイジングで一緒に仕事をしているパートナーである小黒信也さんは、介護の仕事をこれまでしてきた一方、仕事をしながら、認知症の父親を介護し、看取ったという経験を持つ方です。そういう意味で、知識と知恵を兼ね備えた数少ない人です。
彼のブログには、知識だけでなく、それを運用する知恵が詰まっています。
http://mirai-kaigo.sblo.jp/
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事業を通じて、知恵を持った人の知恵がシェアされる仕組みを広げ、
介護をめぐる知恵の流通を変えていきたいと思っています。
スマートエイジング社会とは、知恵が広く流通する社会なのだと思います。




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介護と仕事の両立に関する個人相談会(無料)開催決定 [スマートエイジング]

会社設立後、個人の方からも介護と仕事に関するご相談をいただく機会が増えてきました。法人単位でのサポートを基本にしつつ、個人の方のご要望にもお答えしていきたいということで、月1回の個人相談会を開催させていただくことにしました。

現在、お仕事をされている方で、親や配偶者の介護について相談をしたい方が対象です。コンサルタントが、現状についてお話を伺い、アドバイスをさせていだきます。 事前予約制ですので、各回開催日の2日前までにお申し込みください。希望日時をお伺いし、調整の上で、こちらからご返事差し上げます。

5・6月の予定は以下の通りです。

<開催日>
5月31日(木)18:00〜22:00(事前予約・3組限定)
6月20日(水)18:00〜22:00(事前予約・3組限定)

<会場>
下目黒住区センター第三会議室(目黒駅徒歩8分)
東京都目黒区下目黒2-20-19

詳細は、こちら

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介護離職防止の事業をスタート [スマートエイジング]

4月5日に、新しい会社を立上げました。
名前は、株式会社スマートエイジングと言います。

親の介護などを理由に会社を退職する「介護離職」は、年間14万人にも上ります。その多くは、40〜50代で、経験やネットワークを持った働き盛りです。離職する社員本人だけでなく、会社にとっても大きな損失となります。そうした介護離職を防ぐためのサービスを、会社向けにするというのが事業の柱になります。

http://www.smart-aging.jp/
介護離職防止プログラム 株式会社スマートエイジング - 介護離職ゼロ社会を目指す Smart AGING.png

「介護離職」についての詳しい考察は、今後のエントリーで順番に発信していきたいと思いますが、先に私が考える課題のフレームワークだけ提示したいと思います。

1 高齢化に伴う要介護者の増加と、家族構成の変化に伴い、「介護離職」は確実に増加する。

参考:みずほ総研「懸念される介護離職の増加」

2 会社において、家族に要介護者をもつ社員の割合も高まり、今までは、個人の問題と捉えられてきた「介護」の問題への対応が、会社の持続的発展のための必須要件になってくる

参考:読売ドクター記事
「花王(東京)は08年、介護が必要な家族を抱える社員の割合を試算したところ、08年は12人に1人だったが、23年に5人に1人に増えることがわかった。」
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=52277

3 「介護離職」は、「介護をめぐる問題」×「働き方の問題」によって起こっている現象

4 「介護離職」高齢化による避けられない趨勢ではなく、上記2つの問題に取り組むことで、防げる

5 介護離職の防止により、4つの効用   
(要介護者)持続的な介護生活(介護殺人、介護うつなどに発展しない家族関係)
(社員=介護者)就労の継続
(会社)離職による損失の回避、働きやすい職場の整備による優秀な人材の確保
(社会)社会保障費の抑制につながる

今回の事業は、いままさに介護離職を考えている人をサポートさせていただきつつ、社員、会社、社会それぞれにとって、Win−Winとなると考えています。
介護の問題を、介護保険制度などの公的な枠組みの中だけで考えるのではなく、
企業や個人も含めた社会全体で変えていく流れを作っていきたいと思っています。


  





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