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IVLP報告(4) ホノルル [活動日誌]

日本に帰ってきました~
留守中、業務をお願いし、ご迷惑をおかけしたみなさま、すみませんでした。
今週から業務再開します!

さて、IVLPの最後の報告、ホノルル編です。

ハワイは、人口130万人の地域ですが、本土から離れているため、医療・介護のシステムを自前で作り上げる必要があります。高度な医療ではなく、生活に必要な医療のレベルをどう確保するのかは、これからの日本の地方の医療の課題でもあります。沖縄で病院のコンサルタントをしているメンバーのリクエストで実現したハワイへの訪問だったのですが、非常に大きな示唆がありました。

チーム医療・チームケアの原点は、医学部教育から

<訪問先>ハワイ大学医学部

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ハワイ大学は、医学部教育で有名なところで、日本の多くの大学も提携しています。
日本とアメリカの医学教育は、以下のような違いがあります。

<日本>
大学の医学部(6年)→研修医(2年間)
<アメリカ>
大学(教養課程:4年間)→メディカルスクール(4年間)→レジデント(臨床:2~3年)

全体的に、医師になるために実地の経験がより必要で、座学よりも実践的な内容を重視しているのが特徴なのですが、中でも印象的だったのが、メディカルスクールで行っている「PBL(Problem based learning)」です。メディカルスクールに入ったばかりの学生は、医学の知識はほとんどありません。その学生を5人ずつのグループにして、医学的な課題を与えます。(たとえば、53歳の男性、郵便配達員、よく転倒するので医師を訪れた、といった状況が伝えられます。)学生たちは、実例に関して、自分の持っている知識を動員して考えられる仮説をみんなでディスカッションします。(たとえば、男性は脳梗塞かもしれない、あるいは郵便局の勤務体制に問題があるかもしれない、家の中の環境が転びやすいのかもしれない・・・)その後、仮説を検討するのに必要な事柄を洗い出し、次回までに調べてきます。その次の回には、もう少し詳しい状況が与えられ、さらにみんなでディスカッションを深めていくという形式のプログラムです。2年間をかけて、90の事例を検討して、その間に基礎的な医学の知識の習得をしていくというものです。

非常に素晴らしいと思うのは、チームで行うため、必然的にチーム医療のトレーニングにもなっている点です。医師は、治療におけるリーダーシップをとる必要がありますが、同時に自分が知らない分野において、他の医師や他のスタッフの力を借りる必要があります。しかし、時として、医師が問題を抱え込み、自分ひとりで解決しようとすることで、門外がより悪化することがあります。特に、認知症をはじめとした慢性疾患などにおいては、医学そのものよりも、生活習慣や社会環境を調整する必要があることが多く、医師がチームビルディングができるかということに患者と家族のQOLが大きく左右されます。日本の大学でも、こうしたプログラムが一部採用されているようですが、座学が多く、知識を詰め込むタイプの教育が主流です。医学の世界の中に閉じた専門性ではなく、医学を起点としたチームビルダーとしての専門性を養う医学教育が日本でも広がることを期待します。

経営のプロが、病院経営をするアメリカ

<訪問先>クイーンズ・メディカルセンター

ハワイに限らず、アメリカの病院の大きな特徴は、経営と医療が分離している点です。日本の多くの病院は、医師である院長が経営の責任者です。これに対して、アメリカは、医師はあくまで病院と契約した個人事業主(もしくは被雇用者)であり、経営の主導権は、事務方が握っています。普通の会社と同じように、MBAを持った経営のプロが、経営計画を立て、それに基づいて病院運営がなされます。
クイーンズ病院は、ハワイ最大の病院(非営利)で、この日は、COO(最高執行責任者)の方に、病院のマネジメントについて伺いました。カラフルなスライドで、病院のビジョン・ミッションや今年度の事業計画について話してくれたのですが、非常に印象的だったのが、「病院もビジネス、違うのは利潤を株主に配当しないことだけ。」という彼の言葉でした。

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病院のロビーには、売店やギフトショップだけでなく、女性のためのエステコーナーなどもありました。(左下写真)従来の病院のイメージにとらわれず、医療サービスを起点とした事業という印象を受けました。

ハワイは、公的医療保険(メディケア・メディケイド)の支払い率(病院から州政府に請求された金額に対し、実際に支払われる割合)が70%台と、米国の中でも非常に低く、経営的には非常に厳しいようです。そうした中、地域で医療を継続していくには、病院だからと言って、特別なことはなく、普通の営利企業と同じような経営をしていくべきということです。実際に、病院経営の利益率は非常に低く、特に離島の医療などは慢性的な赤字で、他に手掛ける不動産の再開発事業などの利潤でカバーしているのが実情です。ただし、単純にコスト部門を削るというような発想はなく、地域医療の長期的な継続性の確保を目指しているという印象でした。もともと、カメハメハ大王によって設立され、外から持ち込まれた伝染病に苦しむ先住民族のために医療を始めたという経緯もあり、離島医療や先住民への医療提供などを目的の1つとしており、その部門は、赤字であることを前提に、経営効率を少しずつ上げていくという目標を立てているそうです。

当たり前と言えば、ごく当たり前のことですが、日本の病院の多くは、医師のギルド組織で、事務方はお手伝いというのが現状です。なかには、スーパーマンのような医師が、経営も医療もできるという場合もあるかもしれませんが、基本的には別々の話です。制度の違う日本で、すぐに変化があるかは分かりませんが、早晩、医療と経営の分離は起こってくるのではないかと思います。「株式会社だと営利に走り、本来の医療ができない」「非営利なので、利潤はなくてもいい」という話がよく耳にしますが、医療も例外なくビジネスの1つであり、社会的責任を果たしながら、持続的に経営するための専門性が必要になってくると思います。狭い医療の枠組みにとらわれず、地域の人々のQOLを高めていくためには、病院の内側からも変わる時代が求められています。

***

アメリカ滞在を終えて

今回のプログラムを終えて一番感じたのは、日本で当たり前と思っていることがまったく当たり前ではないということです。医療は特別から・・・普通の会社と同じように経営はできないとか、IT化がなじまないというような話は、日本の中では一定の説得力があるかもしれませんが、アメリカを見ると、根拠のない都市伝説にすぎないことが分かります。
また逆にケアについて言えば、介護保険制度のある日本は、アメリカに比べかなり先を言っていることも感じました。普段、介護保険の課題ばかりに焦点が当てられていますが、アメリカ人に介護保険を説明すると、「それはすごい!」と驚かれます。もちろん、ヨーロッパなどに比べて、設計思想や使い勝手の悪い部分はあると思いますが・・・それでも結構すごいことなのだと思います。ただ、アメリカがよいとか、日本がよいとかではなくて、制度設計やイノベーティブナ取り組み1つで、医療やケアをめぐる環境はいかようにもなるということだと思います。

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今回一緒に参加したメンバー;学生時代からの友人で経営コンサルタントの根岸さん(中央)と病院コンサルタントの藤井さん(左)

旅を終えるにあたって、一緒にプログラムに参加したメンバーと、今回発見したことや学んだことを通じて、できそうな事業や制度を20個ブレストしました。すべてできる訳ではないですが、きっとその中のいくつかは数年内に実現できると思います。わりと国内に閉じてしまいがちな医療やケアの業界が世界にもっと開かれ、日本が、高齢化する世界のリーティング・ネーションになれるようがんばっていきたいと思います。

このプログラムを通じて知り合った方たちと、プログラムを提供して下ったアメリカ大使館、東京アメリカンセンターの皆さんに深く感謝いたします。

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