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世界が注目する認知症フレンドリーコミュニティーとは [スマートエイジング]

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1月末、認知症フレンドリーコミュニティーとして有名な英国・プリマス市を訪れました。「認知症フレンドリーコミュニティー」という言葉は、まだ日本では一般的な言葉ではないですが、昨年12月にロンドンで開催されたG8認知症サミットでも取り上げられました。認知症の課題を解決するには、薬の開発や医療介護施設の充実だけでなく、認知症になった人が地域で暮らす際に、市民や様々な組織や立場の人々が認知症の課題を理解し、アクションを起こし、認知症の人や家族が暮らしやすい地域を作る必要があるというのが、認知症フレンドリーコミュニティーの取り組みの趣旨です。

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1月31日プリマスで行われた会議 認知症当事者3人のトークに会場300人が聞き入りました

英国では、認知症フレンドリーコミュニティーを作っていくために、それぞれの町でDAA(認知症アクションアライアンス)というネットワークが結成されています。プリマスは、そのDAAの取り組みが最も盛んな地域のひとつで、英国全土のモデルのひとつにもなっています。プリマスで、DAA(PDAA)が組織されたのは、2011年、30の組織が名前を連ねています。加盟している団体は、バス会社、図書館、大学、海軍基地、クリニック、介護施設、学校、非営利団体、弁護士など、市民に認知症のことを知ってもらい、認知症の課題に対して、それぞれユニークな取り組みをしています。
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http://www.dementiaaction.org.uk/local_alliances/1961_plymouth_dementia_action_alliance

認知症フレンドリーな学校
地域の学校(11歳から18歳までの生徒が通う)では、全ての教科に認知症をテーマとして盛り込む取り組みをしています。特定の授業の中で認知症の話を聞くのではなく、例えば、映像制作の授業では、認知症の人をテーマに映像を制作したり、社会科の授業では、地域の介護施設を訪問して、入居者の人とコミュニケーションをとるなど、様々な形で認知症のテーマを知ることができます。
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認知症フレンドリーな図書館
また図書館では、健康をテーマにした図書コーナーを設け、認知症に関する本を積極的に設置したり、認知症を含む様々な病気の当事者や家族が集まる場を提供し、読書会を継続的に開催しています。
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認知症フレンドリーな交通機関
バス会社では、認知症の関する講習を、選ばれた社員が受講し、その社員が会社へ戻り、他の社員に対し、認知症に関する情報提供を行い、認知症の人がバスを利用する際に起こりうる課題について学んでいます。利用者が、降りる停留所が分からないなど、バスの利用に不安がある場合には、事前に運転手に、理解と協力を求める折りたたみ式のカードがあり、「どこの停留所に着いたら、教えて欲しい」など個別のサポートを受けることができるようになっています。
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日本を参考にした取り組みも
認知症に関する講習は、日本の認知症サポーターの制度を参考にしたと言われ、認知症について学んだ認知症チャンピョン(日本の認知症キャラバンメイト)と呼ばれる人が、自分の会社や組織に戻り、他のメンバーに情報を伝え、認知症フレンズ(日本の認知症サポーター)となるという仕組みをとっています。
大学では、大学の教員・職員向けに、認知症の講習を実施する他、認知症をはじめとした介護をする職員向けの、業務時間の調整(フレックス)などを実施しています。

認知症サポーターをはじめ、日本でも、同様の取り組みがあります。日本の多くの地域が、知識の伝達まではできているものの、アクションに結びついていないのに対し、プリマスでは、DAAというアクションを起こすためのプラットフォームを準備し、各組織が主体的な動機を持って、行動を起こしている点に違いがあります。

例えば、図書館で行っている読書会は、地域の図書館がより多くの人に利用してもらうことを目的にした活動の一貫で、認知症の文脈だけでなく、図書館の活用促進という意味を持っています。実際に、読書会を行うようになってから、図書館の会議室の利用者は2年で2倍になりました。

また、歯科衛生士の女性が創設した非営利組織(CIC)は、認知症の人の多くが口腔ケアがされていないという問題意識から作られました。認知症の人の場合、自身で口の中のケアをすることが難しく、家族や介護者が歯を磨かなくてはならないのですが、歯磨きをしている間に指を噛まれてしまったり、歯を磨くことを拒否されてしまうことがあります。この組織では、認知症の人の歯磨きの方法を、家族や介護者向けに教えていますが、口腔ケアの重要性をより広く一般に知ってもらうため、DAAに加盟している他の組織に協力を求め、講座を実施しています。認知症の課題に取り組む上で、地域の他の組織と協力しあいながら、取り組みを広げて行く場にもなっています。
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初めは数人の想いから
PDAAを組織するきっかけを作った人物が、イアンさん。
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航空関係の会社で技術者をした後、プリマス市役所でソーシャルケアの担当として20年働いていました。2009年、首相の主導で始まった英国の認知症国家戦略の策定にも関わっていたイアンさんは、地元プリマスで、認知症フレンドリーコミュニティーを作るための市長を始め、関係機関を奔走し、DAAを結成することになりました。初めは、熱意を持っていたのは、イアンさんを含む4、5人だったそうですが、周囲も、認知症をとりまく課題を理解するうちに、自分の問題としてとらえ、行動をする人が増えて行ったと言います。

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DAAを構成する団体の人にお話を伺った印象としては、「認知症フレンドリーな○○」についてそれぞれが考えて、行動しているということが際立った特徴ではないかと感じました。例えば、認知症フレンドリーな学校、認知症フレンドリーな図書館、認知症フレンドリーな海軍基地・・・DAAを構成する団体の人々は、認知症の課題をそれぞれの組織や職場の文脈に落とし込み、ジブンゴトとしてアクションを起こしています。ひとつ、ひとつの取り組み自体は、日本でも実践されているものもありますが、DAAというプラットフォームを作り、継続的に取り組みが発展していく仕組みが生まれている点が素晴らしいと思いました。

課題と日英での協力の可能性
一方で、課題をあげるとすれば、何を持って「認知症フレンドリー」とするか、定義については、先進地プリマスでも、共通する定義はありませんでした。これは、それぞれの判断に委ねているという理解もできる一方で、地域同士で取り組みを比較した場合に、評価が難しく、わが町は認知症フレンドリーコミュニティーだと標榜すればよいということにもつながる懸念があります。

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今回、訪問したグループには、日本の先進地・富士宮市から市役所の稲垣康次さんも同行されましたが、国内外を問わず、各町の取り組みをお互いに知る中で、「認知症フレンドリー」の共通理解が進むような定義や指標づくりが求められていると思います。
ひとつの試みとして、アルツハイマー病協会では、認知症フレンドリーコミュニティーに関する報告書を出しており、この中で認知症フレンドリーの定義やアウトカムなどについてまとめています。(これについては、また別エントリーで、報告したいと思います。)

来週、東京で報告会もありますので、関心のある方はぜひ!
https://www.facebook.com/events/452410694886439/

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